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もしもの時に役立つ防災コラム

レスキューナースの防災訓練
(食事編)

こんにちは。国際災害レスキューナースの辻直美です。
私はこれまで国内外合わせて30ヵ所以上の被災地に入って活動をしてきました。私の経験をもとに日頃からの心がけ・備えなどみなさまにお伝えしていきたいと思います。

災害時のための食事の防災訓練

災害が起きた時のために、水・食料・トイレの準備が必要だと言われます。物の準備は分かっていても、具体的にはどうやっていけば良いのかをあなたは知っているでしょうか?
災害が起きたあとに必要となる食事についてあらためてご紹介するとともに、私が実践している【災害時のための食事の防災訓練】について説明したいと思います。

災害時の食事のタイムライン

被災時の食事は、時間経過とともに考え方が変わっていきます。災害の規模によっては日常の食事状態に戻るまでには数カ月かかる場合もあります。それを考えると自助努力として最低でも1週間を目安に、それぞれの時期にふさわしい食品を備えることが必要です。

■災害が起こった直後(発災~3日目)

この時期は人命救助、火災が起こっていれば消火活動が優先される大混乱状態です。
電気、水道、ガスなどのライフラインはストップ。自宅はもちろん、避難先であっても救援物資はすぐには届かないと想定するべき時期です。そうなると食事に手間をかけるのは難しいので、封を開けてすぐ食べられるものが重宝します。開けてすぐに食べられる缶詰やレトルト食品+飲料水など飲み物を準備しておきましょう。とはいえ、普段からいろんな調理法に慣れていたら温かいものや普段食べているものに近い食事を用意することは可能です。
被害状況や備蓄品をいつまで持たせればいいか読めない時点では、消費の順番にも気を付けましょう。

■1週間は自分で乗り切る

災害の規模によっては、発災から3日を過ぎてもまだ混乱は続いている可能性があります。
被害が大きくなればなるほど復旧は遅れます。
この時期では避難所から自宅に戻り在宅避難を選択する人が増えます。しかし、まだライフラインはストップしている可能性が高いため、カセットコンロとガスボンベも必ず準備しておきましょう。熱源があれば家にある食べ物の活用範囲が広がります。しかも温かい食べ物は生きる気力になります。これまでの大規模災害でも見られたように、道路が寸断され、物流は混乱していることが予測されるので救援物資はすぐには届きません。
この時期であっても、主食や主菜としてアルファ米や簡単に食べられる缶詰やレトルト食品、水や飲み物などの備蓄はやはり必要になってきます。
したがって、発災から1週間は自分で乗り切れるようにこれらの食品を備えてください。
この時期も、開けてすぐに食べられる缶詰やレトルト食品などは重宝しますので、朝・昼・夜と家族3食分以上、食べられるようにしておきましょう。

■約1週間後~体調を整えるとき

発災して1週間くらい経つと電気が回復してくる可能性が高まり、ここでやっと電気炊飯器、ポット、電子レンジなど家電の使用が可能になります。救援物資が届き始めることも考えられます。
この時期はまだガスと水道は回復していないかもしれませんが、飲料水の備蓄があれば、かなりの食品が役立ちます。
ご飯を炊く事ができれば、レトルトのカレーやおかずの缶詰も役立ちます。
ただし、生活用水がないと洗い物ができないので、そうしたことへの配慮も必要です。
この時期にあってもいまだ流通がストップしていることは考えられるので、お店の棚は空っぽの状態かもしれません。災害時は生鮮食品が手に入りにくく、栄養の偏りから体調を崩しがちです。

この時期は体調管理に気をつけなくてはいけません。特に野菜不足による便秘や体調不良になることが多いので、意識して野菜を摂るようにしてください。
野菜類の入手困難に備えるという点からは、野菜ジュースやトマトジュースがあると心強いです。これでビタミン、ミネラル、食物繊維をとることができ、水分補給にもなり重宝します。他にも、フルーツ缶詰やドライフルーツ、ナッツ類、食欲がない時にもエネルギー補給ができるゼリー飲料など、これらは発災からすべての時期で利用度が高いのであると安心です。

私が被災した時の実際の食事はどうだったのか?

私は自宅で大阪府北部地震を被災(2018年6月)。15階建てのマンションの12階に住んでいて、震度6弱でかなり揺れました。ライフラインは一瞬で断絶。その日から水と電気は1週間、ガスは10日間停止しました。

その時の在宅避難のコラムはこちら

そんな中で私は、災害用の食事は食べていません。なぜならいつもと同じような温かい、食べ慣れたものを食べないと元気が出ないと感じたからです。そして封を開けたら食べられるようなものは、まだ食べずに置いておきました。もし家からかなりの距離を歩いて避難する時や、何らかの理由で家からどこかに移動しなくてはいけない時のために保存しておきたいと思ったからです。

たとえライフラインが切れていても調理ができるように、普段から訓練しています。再び地震が起きても、火の元の安全を優先し、消火が確実にできることも重要です。普段からキャンプ用品やカセットコンロを使うようにして、実際にも消火は何度も練習してから使うようにしています。当日の昼はメスティン(アルミで出来たキャンプ用の四角い飯盒)で白米を炊き、鯖の味噌煮缶を温め、フリーズドライの味噌汁、ミックスベジタブルのバター煮を作りました。

自宅の中は自分で編み出したプチプラ防災を実践しているので、キッチンもリビングも無事です。落ちたり倒れたりしたものはキッチンの調味料3本、ペットボトル1本のみ。
つまりキッチンのガス、電気、水は使えなくても、キッチンの中には入れるし、食器も使えました。これがかなり生活の質が上がることにつながりました。キッチン内の日常備蓄はもちろん、冷蔵庫の中身も問題なく使える状態だったのです。
夜は冷蔵庫の庫内の温度が上がってきたので、冷蔵の中にあるものの常備菜と冷凍庫の中で自然解凍されたイクラを食べました。

その時の写真はこちら

それからも冷蔵庫、冷凍庫、常温の野菜、レトルトや缶詰、インスタントラーメンなどを使って、いろんな料理をして、おいしいものをたくさん食べたので、メンタルダウンもなく、ベッドでぐっすり寝ることが出来たのです。
結局10日間ライフライン断絶の中、私は特に困ることもなく、生活をしていました。救援物資はなくとも、自宅にあるものだけでもあらゆる燃料をうまく使っていけば、日常の食事と変わらないものを作って食べることは可能なのです。

★備蓄する時のポイント

◆被災時は全てのライフラインが止まることを想定し、缶詰やレトルト食品を中心に常温保存が可能で開けてすぐに食べられるものを。
◆災害時にしか使わない特別な食品というよりは、普段食べ慣れているもので自分や家族が好きなものを選びましょう。
◆カセットコンロとガスボンベを用意しておけば加熱調理ができ、活用できる食品の範囲が広がります。さらに固形燃料やキャンプ用調理器具などがあれば快適です。
◆中型のバッテリー、充電器はソーラーのものがあれば、電気ケトルやIH調理器、ホットプレートなども使えます。より快適な避難生活を送るためにも備蓄しておくと良いでしょう。
◆災害用の備蓄食品を備蓄品だからと仕舞い込まない。できれば日常備蓄品を多めに買っておいて、食べて消費し、また買い足してローリングストックを実践しましょう。

アルモンデ料理はまさに防災メシにピッタリ

最近流行りの冷蔵庫に残った野菜やストック食材など、家に「あるもんで」つくる、アルモンデ料理。新たに食材を買い足すことなく、自宅にあるもので料理を行う「アルモンデ=あるもので」という意味です。レトルトや缶詰を使えば、余分な味つけをする必要なし。調味料を使う手間もかからないから、あっという間につくれます。食品ロスも防げるおいしい一品をぜひ試してみてください。

お気に入りのレシピを見つけておけば、災害時だけではなく、普段の食事でも活用できると思います。私はパスタのレトルトソースは調味料として捉えているので、あれこれとご当地ものなどを出張の際に購入しています。もちろんパスタにあえて食べますが、それ以外の活用法を考えて、試行錯誤しながらレシピを作り上げていきます。それがいざという時の防災メシとなるので、なるべく調理にかける時間や工程は少なくなるように考えるのがポイントです。たとえば、ナポリタンソースはお湯で薄める+野菜を加えて煮込むとトマトスープに。カルボナーラソースはスキムミルク+お湯+ソーセージ+冷凍野菜で野菜クリームスープに。サバの味噌煮缶と紅生姜で炊き込みご飯なども炊いています。

編集スタッフ作、アルモンデスープ

防災のためにレシピを考えるのは正直頭が動かないと思います。しかし普段の生活の中で「今日はご飯作るのめんどくさいなぁ」とか、「今日はお金が給料日前なのでちょっときついなぁ・・・」なんていう時はアルモンデ料理は最適です。家にあるものだけでチャチャチャっと作れるってめちゃくちゃ魅力的なスキルですよね(笑) そこで発揮するのって、柔らかい思考力・発想力。これとこれ組み合わせたら、どうなるんだろうという予測をつけられるようになると、いろんなものを組み合わせて料理が作れます。その上フードロスまで防げるなんて最高ではありませんか?そしてこの経験がいざという時にあるものを組み合わせておいしい料理を作るという最高のサバイバルテクニックになるわけです。
日常と防災は離して考えない。むしろフェーズフリーです。分け隔てなく、境目なく普段から使いこなす。頭でイメージしているだけでは、実際は絶対に体は動きません。日常でやっている事しか災害時はできないのです。 最初はアルモンデ料理で持ち寄りパーティーもいいですね。自分以外のお宅でこんな料理をしてるのかという発見は、あなたのスキルに加えることができます。

私の在宅防災訓練、食事編について

毎日の食事で、アルモンデ料理やいろんな熱源での調理の仕方を実践しています。なので、普段の買い物も毎日して自炊しているのではありません。あるものをよりおいしく作って食べる経験は、トラブルが起きてもなんとかやっていけるものです。

そこで、私は更なる実践として、年に4回自主的にライフラインを切って1週間生活します。地震発生+津波を想定し今年の夏はかなり暑かったので、中型バッテリーを購入して使用しました。基本的にはバッテリーは調理には使いません。ハンディファンやスマホの充電などに使用しています。調理にはカセットコンロ、ガスボンベ、アルコールストーブ、固形燃料などを使いました。水は自宅に計273リットル備蓄しています。これはナチュラルウォーターですが、1年間しか賞味期限がないので、普段から使って、使った分を購入しています。

防災訓練1日目
安全確保をメインに過ごします。いきなり片付けをあれこれやらない。自分のいるスーパー安全地帯を確保する。特に調理する場所は、また地震が来て二次被害が起きないことが一番大事です。大きな地震が起きるとモノは落ちる、倒れる、移動する、飛ぶという動きをします。これを意識して安全な場所で調理しています。
停電すると、冷蔵庫の中身が気になってすぐに開けたくなってしまうかもしれません。停電後は慌てて冷蔵庫を開けてしまうと、中の冷気が逃げてしまって、冷蔵冷凍状態が保持できない。だから特に冷凍庫内の食品に関しては、すぐに開けないことが鉄則です。そして冷蔵庫、冷凍庫のどこに何が入っているのか?を把握しておくことが大事です。何を出すのかを考えずに冷蔵庫を開けてしまうと、悩んでるうちにどんどん冷気が逃げてしまって、あっという間に溶けてしまいます。私は冷蔵庫の中身も箱で区分けをしています。そうすることで、何がどこに入っているかが一目瞭然。ストック管理もしやすいし、買ってきた時も片付けるのが楽なんです。
そして、今日は料理したくないなぁと思う時のための時短料理の部類のもの、停電時にすぐ溶けて、自然解凍で食べられるようなもの、というような区分けもしています。何がどの辺りにあるのか?これを把握しておくと、冷蔵庫を開けながら何を作ろうか悩むことはなくなります。そして災害時にご飯を作る時には、効率よくスピーディーであることは重要です。もしかしたらまた揺れが来るかもしれない。なるべく持ってる熱源を無駄にしないのも大事です。

防災メシは楽ちん料理。育児中で大変な親御さんも、一人暮らしの学生さんやサラリーマン。単身赴任のお父さん、介護中で自分のご飯がおろそかになりがちな方、家でリモートワークで、ご飯を作るのが面倒な方。そんな方々におすすめなんです。

防災訓練2日目
安全確保をメインにしながらもしっかり食べること。不安から眠れなかったり、普段と違う状況から緊張して食欲が落ちたりすることもあります。しかしここでしっかり食べることで免疫力を下げない。体力をしっかりつけることが必要となります。なので、ここでは1番大好きなものを食べます。そして冷凍庫の中身もどんどん溶けてくるので、この時点で加熱をして食べていきます。肉や魚などの良質なタンパク質を摂取できるよう、熱源をうまく使ってシンプルな料理をしても良いと思います。我が家ではアジや鯖の干物、豚や鶏の肉などを多めに冷凍しているので、積極的に使っていきます。魚の干物はそのまま炙って食べるだけではなく、出汁茶漬けの具として使うのにもOK。パスタの具として使うこともあります。

そして比較的料理も、簡単な料理として、メスティンで多めに炊いておいたご飯を使ってチャーハン、お腹に優しい雑炊などよく作ります。災害時は、炭水化物は手に入りやすい。反面、タンパク質やビタミンとミネラルは不足しがち。解決策は味噌汁やスープ。冷蔵庫の中の野菜と肉を使って塩味のポトフをつくります。ここから味変をどんどん実践。トマトケチャップを入れたり、味噌を入れたりすることもあります。最後はカレー味にしてしまえば全部残すことなく食べられます。冷蔵庫の中に乳製品がある場合は積極的に料理に使ってください。品質が劣化してしまってはもったいない。いいタンパク質を体の中に取り込んでいきます。

あと、冷凍庫の中にある冷凍食品。味の素といえば、冷凍餃子!これは停電から24時間後でも、封を開けていなければ衛生的に問題なく食べられるという実験データが出ています。
リリース情報「停電の時でも いつもの「ギョーザ」をおいしく活用できる」

なので、我が家の冷凍庫の中には味の素の餃子、そして焼売が割と多めに入っています。もちろん普通に焼いて食べるもよし、スープの具として使うのもよし、つぶして全く違う料理を作るときの素材として使うもよしです。
1番簡単なのは、水餃子にすると野菜と一緒に食べられるので、バランスの良い食事になり、かつ温かいので、心も体もほっとします。

防災訓練3日目
安全確保も気にしつつ、冷蔵庫の中身は劣化していくので、早めに加熱して食べていきます。そして同時に冷凍庫の中身は封を開けていないものを中心に食べていきます。冷蔵・冷凍庫の中でも封を開けてきれいにパッキングしてなければ停電3日目では残念ながら廃棄しなければならないかもしれません。なので、それまでに冷蔵・冷凍庫内の食品は食べるようにしています。インスタントラーメン、レトルトパック、缶詰などを多めに使って調理をしていきます。
災害が起きれば、缶詰、レトルトパックを使いがちですが、これは常温でも中の品質が変わらずキープできるので、最後のほうに取っておいた方がメンタル的に焦ることがありません。被災生活は備蓄していたものがどんどん減っていくので、焦ってしまいます。しかし、家の中にある備蓄品で何日ぐらい食べるものが作れるのかを知っておけば、メンタルダウンも防げるし、むしろ落ち着いて避難生活を過ごすことができます。

災害用の食事を1日3回、できれば1週間分の備蓄と考えれば非常にたくさんの量を用意しなければなりません。しかし、フェーズフリーの考え方で普段から食べているものをうまく使い回す。なるべく日常で食べていたものに近いものを食べる。
まずはこのコラムを読んだ週末の1日だけでいい。アルモンデ料理で1日やって、見てください。
そこでうまく作れなくても、今はまだ災害が起きていない。だから、いつでもやり直すことができる。はじめての事は失敗ではありません。そこからいろいろ改良してあなた好みの味を作っていくためのファーストステップなのです。ぜひ実際に防災訓練として食事のこと、やってみてほしいと思います。

執筆者:国際災害レスキューナース 辻 直美
※コラムの内容は、筆者の経験に基づく見解です。
2023/11/20掲載