検索
商品情報
レシピ
知る・楽しむ
企業情報
ニュース
お問い合わせ
もしもの時に役立つ防災コラム

災害に遭っても、
私たちは生活をしていく

こんにちは。国際災害レスキューナースの辻直美です。
私はこれまで国内外合わせて30ヵ所以上の被災地に入って活動をしてきました。私の経験をもとに日頃からの心がけ・備えなどみなさまにお伝えしていきたいと思います。

私は、日本に住んでいる人は被災時のイメージを持てていない方が多いように感じます。生活をするということは食や睡眠も必要です。いつもと違うと、食欲も落ちる。当然、睡眠も排泄もバランスが崩れてきます。災害時に心も体も元気になって元の状態に戻していくことが大事。そのポイントをお話ししたいと思います。

講演の様子

なぜ日本は被災時に我慢する食事をとるのか?

私は過去30ヶ所の被災地に赴き、避難所や在宅避難されている人の救助に携わってきました。そこで見るのはいつもとは全く違う環境。日常を過ごす場所はもちろん、見える景色、寝る場所、トイレもいつもと違います。人はあまりにも違う環境に置かれると、ストレスが強すぎて心も体も緊張します。しかし過度な緊張は自覚できないことが多く、知らない間に心も体も元気がなくなってしまう。そして復興に向けて動くことができなくなる。しかも自分でも何をしたら元に戻れるのか、わからなくて困っている方が本当に多いのです。

その上、災害のために備蓄しているものは、日常で使ったことがないものばかり。防災グッズセットを買ったけれども、1度も開けたことがないと言う方もいらっしゃいます。普段から使ったことがないものを、災害時にスムーズに使えるとは思えません。初めて使って思わぬトラブルを起こすこともあり、どんどん気持ちが落ちていきます。これは災害を受けた場所での気持ちの負のループなのです。

これを解消するにはどうすればいいのか、私は色々と試してみました。その中で一番効果があったのは【食事】でした。それも普段食べているもの、もしくはそれに近いものを食べているほうが睡眠も取れるし、心も穏やかに過ごしていました。しかし残念ながらこの食事に関しても災害時にはなぜか質素で普段とは比べ物にならないような備蓄ばかりです。家には備えているけれど、1度も食べたことがないと言う方も多くいます。どんな味なのか、どんな食感なのか、それは自分の好みの味なのか、これはとても大切な要素です。なのに日本の災害食はその部分を重視していないように感じます。

緊急時には質素なものを食べる、それは備蓄が限られているからこそ必要な考え方でもあります。しかし日常からあまりにもかけ離れたものはストレスにしかなりません。ちょっとした知識、テクニックで少ない材料でも日常と変わらない食事をとる事は可能になります。それは災害時だけのテクニックではなく、日常生活の中にも大いに取り入れて欲しい。なぜならば時短になり、そして節約になるからです。

今やフェーズフリー(日常時と非常時の境をなくす)と言う考え方もあり、防災と日常は、その垣根を越えて考えるべき問題です。日常生活においての備蓄がそのまま防災の備蓄と考えてみてください。そうすれば、いつ来るかわからないもののためにではなく、「いつもの状態より多めに買う」という状態になります。
わざわざその日のために置いておくのではなく、普段から使うことが大事です。使うことで賞味期限切れは防ぐことができます。あなたの味の好みに合わせた備蓄ができます。なにより普段から「何があっても食べるものがある」のは心の安心につながります。ちょっと多めに買って、使う。使ったらまた補充する。この繰り返しがローリングストックなのです。

ローリングストックイメージ図

災害現場の実際の食事

過去30箇所の避難所を回ってみた現実は、みなさんがニュースなどで見ている映像とはかなり異なります。ニュースなどで見ている映像は、もちろん事実です。しかし、それは視聴者にとって見るのに絶望感や嫌悪感がマックスではない、見るに耐えられる映像です。家の中のものがぐちゃぐちゃになり、被災者が血を流してうめき苦しんでいる横で、別の被災者は助けることもなく、自分の家の瓦礫を無表情で片付けている。その横ではアルファ化米のおにぎりを食べていたり、缶詰のご飯を無表情で食べていたりします。

避難所にはある程度の水や食料は備蓄されていますが、最低限の数しかありません。また、全員分の配給ができなければ、配布は延期される事もあります。人が1日に必要な水は最低3L程度です。
食事に至っては、配布されても乾パンや缶詰が一人一個程度で、満足できる量かどうかは別の話。食事の好みは全く考慮されていないし、何日も同じものが続きます。飽きたとしても、これを食べるしかありません。
当然温かいものなどほとんどありません。使う食器も使い捨てのもの。日頃、使っている陶器や木のお皿などは、実は心を満たす大事な要素なのです。

西日本豪雨の際の実際の配布された食事(家族4人で1日分)

災害時には非日常がこれでもか!と矢継ぎ早に襲いかかります。どんどん自分の日常が根本から壊れていく感覚です。避難所でも、在宅避難でも、食事に関する人々のストレスは多く、いつもたくさんの要望を聞いています。少しは改善することもできますが、快適には程遠い状況です。

日本の避難所は世界の難民キャンプ以下とよく言われます。私もそこは毎回感じています。清潔ではありますが、全てが最低限なのです。だからこそ基本的には災害発生から72時間は自分の用意したモノだけでなんとか乗り切っていかねばなりません。何を備えるのかで快適性はかなり変わります。日頃から、モノとスキルを備えておけば、日常に近い食事をとることができます。

ちなみに私は大阪府北部地震では、震度6弱をマンションの12階で経験、水・ガス・電気などのライフラインは断絶し、全ての復旧には約一ヶ月かかりました。しかし特に困ることがなく在宅避難をして、食事は自炊していました。
味噌汁、いくらごはん、鯖の味噌煮、ほうれん草のバター煮、これが被災当日の夜のごはんだったのです。普段よりも豪華だったかもしれません。おかげさまで気力も、体力も、落ちることなく生活していました。普段と変わらない食事をとることは、なかなか難しいことのようです。与えられたものだけしかない食事か、自分の好きなものを適正な状態で食べることができるか、これは避難生活の中で、重要なポイントだと思いました。

ライフラインが全て止まった中、キャンプ用バーナーで調理した食事

周りが悲惨な状況だからこそいつもの状態にしたくなる

あなたは備蓄した食材を食べたことがありますか。その経験がないのであれば、災害時に初めて食べることになります。その備蓄食はおいしいのでしょうか?これはとても大事なポイントです。

災害時に食べたことのない災害備蓄食しか用意していなければ、食事はそれしかありません。
いつもとは全く違う状況の時に、自分の口に合わないものを食べたらどうなるのか?想像しただけでも心が痛くなりますね。どんなものでもいい、いつも食べているものがあれば心がほっとするに違いありません。

災害時に我慢を強いるような食事を用意するのはもうやめませんか!自分の口にあった、なるべく日常に近い食事をとることで、体は元気になり心は前向きになります。災害が起きても生活はしなくてはなりません。だからこそ日常に近い食事をとる、そんな準備をしていて欲しいのです。

キャンプ用バーナーとメスティンで炊飯

耐熱性のポリ袋を使った調理で冬でも温かいおかず

あなたにとって普段食べていて心がほっとするもの、それをぜひ備蓄の中に入れて欲しいのです。もしくは普段食べているものでアレンジしやすいものでも良いでしょう。料理は創造です。やわらかい頭で考えると、AとBを組み合わせたら自分が食べたかったものになるかもしれません。1から丁寧に作る必要もありません。レトルトのソースやふりかけなどは調味料だと思って考えてみてください。インスタントラーメンや冷凍食品などもアレンジ次第ではいろいろな料理に変身します。こんなアイディア料理を普段から食べていれば、災害時にものが少ない中でこの料理をしたとしても、非日常の我慢する料理にはならないのです。私は数々の被災地でもこのテクニックで乗り切ってきました。大阪府北部地震では実際に被災をして、ライフラインが途絶えました。しかし私は普段から使っている道具で、日常と変わらない食生活を送って心と体の安定を保っていました。やはり食事は身体にとって大事なこと。心のバロメーターに大きく関わると実感しました。日常の味こそ災害時に食べたくなる。そのための準備を日ごろからしておきましょう。

執筆者:国際災害レスキューナース 辻 直美
※コラムの内容は、筆者の経験に基づく見解です。
2022/12/23掲載