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もしもの時に役立つ防災コラム

レスキューナースの防災訓練
(日常編)

こんにちは。国際災害レスキューナースの辻直美です。
私はこれまで国内外合わせて30ヵ所以上の被災地に入って活動をしてきました。私の経験をもとに日頃からの心がけ・備えなどみなさまにお伝えしていきたいと思います。

災害は突然やってくる

多分この言葉は、きっと耳にタコができる位に聞いていると思います。
自然災害は人が防げるものではありません。2011年の東日本大震災をはじめ、2016年の熊本地震や2019年の東日本台風(19号)、今年(2023年)あちこちで起きた豪雨災害や台風被害。日本は多くの災害によって甚大な被害を経験してきました。今後もこのような災害が起こる可能性は否定できず、災害は起こるものと考える必要があります。災害が起こったら、まず命を守る事を最優先に、そして、次に何を一番にすべきかを考えるのが重要です。
自然を相手に「今まで大丈夫だったから」は通用しません。常日頃から危機意識を持ち、とっさの状況でも行動できるように備えておくことが命を守る上で大切だと痛感しています。災害は突然、私たちの想像を超え、生命を脅かすような猛威を奮ってきます。
「この前は平気だったから、今回も大丈夫だろう」などと思わず、きちんと"命を守る行動"ができるように日頃から災害への備えをしましょう。

日常生活をいつもと変わりなく営んでいて、いきなり災害が起きる。あなたはそこから助かり、生き延びて行くためには具体的にどうしたらいいのかを知っていますか?
今回はそのヒントになるように、レスキューナースの私が普段から実践している"日常の防災訓練"をお伝えします。

あなたの夢や希望を叶える3つのステップを実践する

「あなたは自分の欲求や夢や希望に対して制限をかけていませんか?」「もっと自分の気持ちに正直になってください」
夢や希望に対する思いが防災につながる?レスキューナースによる日常の防災訓練の話に、個人の夢や希望を語る?あまりにも突拍子もないことにびっくりされているかもしれません。

実は夢や希望を正直にもつことは、防災や災害対策とすごく関連して非常に大事なこと。常日頃から自分がどういう環境が心地よいのか?自分は何があれば機嫌よく過ごせるのか?どんなことをしてみたいのか、などを具体的に把握している人は、それを形にするための行動が容易にできると言われています。自分の希望がフワッとしていてよくわからない。もしくはそれを望んではいけないと自分で制限をかけていたら何も叶いません。夢や希望を持つことは、あなたに明確な方向性を与えてくれます。あなたの人生に目的を与え、ベッドから起き上がるのがつらい日でも、モチベーションを維持するのに役立ちます。目標があれば、目の前のことに集中し正しい方向へ進むことができます。自分の気持ちに嘘をつかないというのは、生きていくためにはとても大切なこと。我慢はせずに貪欲に自分の夢や希望を持ち、それを叶えてください。

私の夢は「自分でサバイバルできる人を1人でも多く生み出す」です。
実際に私が自分の夢や希望を叶えるためにやったのは以下の3つ。
①夢を叶えたい理由を掘り下げる
②必要なアクションを具体的にする
③長期的なスパンで考える

私の場合は
①「夢を叶えたい理由を掘り下げる」は、災害が起きた時にもっとやっておけばよかったと後悔する人を無くしたい
②「必要なアクションを具体的にする」は、世の中があっと驚く今までにはない切り口のおもろい防災を作り上げる。そのためには既存の防災の概念を崩す。恐怖や不安を煽るのではなく、やってみたいとワクワクする気持ちを生む防災講座をする。本を出版して、それをきっかけに世間に私の考える防災を知ってもらう。
③「長期的なスパンで考える」は、3年単位で事業計画を実践する
この3つをもとにコツコツとやって、自分の気持ちを形にしてきました。

防災の著書も増えてきました。

各地で防災についての講演をしています

これが実は日常の防災訓練になっているのです。

さて、自分の夢や希望を明確にすること、叶えるためにやる行動がなぜ防災につながるのか?をお話ししましょう。あなたにとって被災したときの生活はどんなイメージですか?避難生活に対するあなたの希望は明確でしょうか?これを答えられる人はほんの一握り。大抵の人は考えたことがないとおっしゃいます。それはあなたの弱点になります。被災後の生活に対して受け身では、あなたの望む生活は手に入りません。
いつ来るか分からない災害に対して、避難先の確認や危険箇所のチェックなど今できることを行う。これは事前の対策としては誰にでもすぐにできる防災です。しかしそれだけで終わっていませんか?情報収集して安心というのはよくある話。それだけでは実は何もできません。避難するのはどのタイミングなのか?危険箇所がわかったらどうするのか?あなたが考える避難生活はどんなものでしょうか?それが具体的にイメージできていないと、防災情報を知っていても行動にはつながらないのです。
私はどんな災害にあっても「しょぼい避難生活はしない」「なるべく日常に近い状態で生活したい」と思っています。日本における避難生活は、往々にして最低限で我慢することが当たり前になっていると感じています。しかし本当にそんな生活で復興までの道のりを乗り越えていけるとは思えません。もっと心地よさを求めてもいい。できる限り自分の求める環境を明確にイメージすることが最も大事なことです。
先ほど申し上げた夢を叶える3つのステップ。これをあなたが希望する避難生活に当てはめてみましょう。

1 「夢を叶えたい理由を掘り下げる」
 → その希望の理由を掘り下げてみましょう。
2 「必要なアクションを具体的にする」
 → 望む避難生活を叶えるために具体的にどうしたらいいかを明確にする。そのためには、その環境を作るためにどんなものが必要なのか?それを作り上げるためには何があればできるのか?もしもそれがなかった時に代用できないか?まで深く考えるのです。
3 「長期的なスパンで考える」
 → 長期スパンで元の生活に戻すためのプランを考える。

こうやって受け身な避難生活ではなく、日常に戻る為の時間と捉えて能動的に生きぬくのです。

料理は常に実験感覚

私は意外に思われますが、料理が大好きです。見た目と仕事の忙しさから全く料理をしないと思われがち。私にとって料理はとてもクリエイティブな作業。どちらかと言えば実験感覚ですることが多いです。レシピ通りに作るよりも、これとこれを組み合わせたら同じになるんじゃないかなと予想しながら作ることが多いです。その中でも、時短料理や何か食べたいもののために、代用品を使ってその味に寄せるのがとても得意です。

災害時の食事は調理をせずにそのまま食べられるものが好まれます。私も2回被災を経験しました。(阪神・淡路大震災(1995年1月)と大阪府北部地震(2018年6月))どちらもライフラインは壊滅しました。特に阪神・淡路大震災の時は今のような知識もスキルも持っていなかったため、元のような日常生活に戻るのに時間がかかりました。振り返ると、与えられるものに常に不満を持っていました。暖かいベッドで寝たい、寒いのは嫌だ、もっとおいしいご飯が食べたい。被災をしてこんな思いを持つ事はわがままなんじゃないかと思ったこともありました。でも準備さえしておけば我慢する必要は無いと言うことも感じました。そこから私は日常生活そのものを、災害時でも不満がない生活が出来るようにシフトしたのです。災害時に食べるためだけに水や非常食を用意するのではなく、普段から少し多めに用意してうまく活用する。被災して、心身ともに疲弊している時にはおいしいものを食べたいと心から思ったからです。

そこから始めたのは備蓄の見直し。好きで食べていると言うだけではなく、アレンジが効くものをベースに備蓄を考えました。主食で考えると米、パスタ、うどん、そば、インスタントラーメンがあります。乾麺のうどんやそばは、水を大量に使うことに気がつきました。非常時に使うものとしては、冷凍ものが断然使い勝手が良い。なので、冷凍食品も必ずストックするようにしています。
又、うどんをうどんとして食べるだけではなく、うどん餃子(大阪の学童保育ではよく作られるB級グルメ)や、インスタントラーメンをパスタがわりにしたり、そばめしの材料にしたりすることもあります。発想の転換をしていろいろな料理を作るようになりました。

うどんでカサ増しした「うどん餃子」
(編集スタッフアレンジ版)

調理方法も炊飯器、ガスコンロだけではなく、カセットコンロや固形燃料なども使っていろいろな熱源で作ります。それを極めたらキャンプにたどり着きました。
山メシやキャンプ飯は少ない器具や資源でおいしいご飯を作ります。それは災害時にも同じだなと思ったので、どんどんキャンプをしに行きました。今までのキャンプで食べるようなBBQではなく、家で食べていたようなものを作るようにチェンジ。キャンプで培ったスキルを今度は日常生活に取り入れて、キャンプギアもどんどん家で使うようになりました。そしてキャンプ用とか家用とか分ける必要がないなと思いました。今では、ダッチオーブン(鋳物の鍋)、メスティン(アルミできた四角い飯盒)も我が家のキッチンにあり、キャンプに行く時はキッチンから持っていくようになりました。

編集スタッフも普段使いのダッチオーブン

メスティンもキャンプ使いだけじゃない

実験のように料理を作っているうちに、備蓄するものだけではなく、調理器具なども自分にとって使い勝手の良いものが揃ってきました。それを普段使いにすることで、さらにスキルが上がります。キャンプではライフラインが全て充実しているわけではありません。その不都合を楽しむことが大切。そして日常に寄せるには、何があれば良いのかを考える事も必要。これは同時に実現していくことが防災につながると思っています。
違った切り口で考えれば、キャンプは避難生活だと思ってみてください。普段とは違う環境、全てが不便で、いつも通りではない。だけど、考えようによっては楽しむこともできるし、準備とスキルが揃っていれば、自分が望む状態を作ることも可能です。今では、わざわざ外に行かなくてもおうちキャンプと言う楽しみ方もあります。今日の晩御飯は家にあるものだけで、カセットコンロで調理をする。あえて照明は使わずランタンを使う。こういうイベントこそが防災訓練になるのです。

自主的に年に4回、ライフラインを断絶した生活をする

私は春夏秋冬、年に4回、3日から1週間程度ライフラインを切った生活をしています。これは自主的な防災訓練です。もうすでに15年以上開催しています(笑)
さすがにブレーカーを落として、冷蔵庫の中身を全部溶かしてしまう事は気が引ける。だから停電で冷蔵庫のものが溶けることを想定する状態を擬似的に作ります。それはクーラーボックス。そして冷蔵と冷凍しているものをある程度、中に入れるのです。
照明器具は、100円均一ショップのソーラー充電のガーデンライト、懐中電灯やキャンプで使うランタンなども使います。

500円で購入したランタン

水の備蓄(※「レスキューナースが教えるプチプラ防災」(株)扶桑社、著者 辻直美 より @山川修一/扶桑社

水は備蓄しているものだけを使用。当然、お風呂にも入れないので、節水しながら水を使い、体を拭くのは体拭き、おしりふきシート、髪の毛はドライシャンプーを使います。停電するとトイレも使えないので、ペットシーツとゴミ袋で作る災害トイレを実際に使用します。

こうやって書くとかなり過酷な状況のように思われますが、私はかなり楽しんでいます。ずっと家にこもっているだけではなく、普通に仕事にも行きます。しかしそこで1週間避難訓練をしている事はバレたことがありません。つまり、日常生活を送っているのと変わらないような生活ができているということです。年に4回行うのは、その時期によって必要なものが変わるから。最近の夏は猛暑なので、1日3リットルの水では足りません。飲むだけでも3リットル必要です。なので夏場の備蓄は1日6リットル位を想定して準備をします。冬場になるとそれほど水は使いません。しかし寒さ対策として防寒対策グッズが必要となります。寝袋で寝るにしても、春夏秋冬では気温も変わるので、どういう風にすれば快適なのかをいろいろ調整しています。
15年もやっていると実際そんなに困る事はありません。日々、知識も増すし、スキルも上がる。それがイヤイヤではなく、楽しみながらやっているので、情報もどんどん入ってくる。自分がスキルアップする手ごたえもあります。去年まで必要だったものが、今年はいらないことに気がつきます。また気象状況が変わってきたので、今まで必要ではなかったけどこれからは必要だろうなと気がつくことも。実際にやってみることで、頭の中のシミュレーションとは違って、要るのか要らないのかが明確に分かります。

災害時と日常を分けずに、生活するために

世の中の今までの防災訓練や避難訓練は被災した瞬間だけを想定した内容が多いです。
助かることも大事。しかしそこから生き延びていく事はもっと大切です。しょぼい避難生活よりも自分の望んだ生活を手に入れる。そのためにはやはり経験することが大事です。私は日常の中でどんな体験も災害時に活きてくる確信がある。災害時は日常でしている事しかできません。恐怖や不安も大事、しかしそれは準備が不足しているからこその感情です。大掛かりな事はしなくていいけど、何もしないのは問題です。笑 
ぜひ何か1つでもチャレンジしてみて自信をつけて欲しいなと思います。

執筆者:国際災害レスキューナース 辻 直美
※コラムの内容は、筆者の経験に基づく見解です。
2023/10/20掲載