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もしもの時に役立つ防災コラム

災害時のご飯はなぜショボイ設定なのか?

こんにちは。国際災害レスキューナースの辻直美です。
私はこれまで国内外合わせて30ヵ所以上の被災地に入って活動をしてきました。私の経験をもとに日頃からの心がけ・備えなどみなさまにお伝えしていきたいと思います。

災害時のご飯、それを食べて笑えますか?

あなたが用意したものを被災時に食べている姿を想像してみてください。その時のあなたは、家族は笑っていますか?食べることで元気になっているでしょうか?大抵の方は防災について、特に食事の話をすると目を逸らします。災害が起きた後の食事というのは、復興に大きく関わる大事な要素となります。災害が起きて助かった命。そこから元気になって復興して元の生活に戻すことが必要です。その時の為にも災害時に食べるご飯について真剣に考えてみませんか?

被災時の現状は予想以上のことが多い

地震などの災害によっては、被災地では電気、ガス、上下水道、通信機能が停止します。道路の損壊によっては車の通行も不能となります。日ごろから便利で快適な生活を支えているライフラインは事前の予告もなく、一瞬にそして同時に失われます。最近では食料も飲料水も生活必需品もスーパーやコンビニや自動販売機で買うので、全く備蓄はしないという方も多くいます。普段はそれでも良いでしょう。しかしライフラインが停止すると、スーパーやコンビニや飲料の自動販売機の機能も停止します。当然、購入することは不可能になります。道路の損壊や渋滞などで、物流は混乱し、被災地で商品を購入も出来ません。このために被災者は自宅が損壊していなくても、自宅での生活を一時的に諦め、余震を心配しつつ、避難所に向かうことが多くなります。
避難所は皆さんが思うほど快適な場所ではありません。災害が起きる季節によって快適度はかなり変わります。冷暖房もなく、プライバシーもない。避難所のトイレは、汚水で詰まって流れなくなり、ほぼ使えなくなります。排泄行為が十分に、快適にできなくなります。プライバシーも守られず、いつまでこのような生活が続くのかとストレスが溜まります。

そして、現代人の生活では、スマホは必須アイテム。情報もコミュニケーションも、買い物も、エンタメも、ほぼスマホでしていると思われます。しかしそれも電気があって、通信状況があり、輸送路がトラブルなく活用できているからこそ。大きな災害が起きると全て手に入らなくなる。これだけスマホに依存している現代人は、それが使えないとなると不安で不安で仕方がなくなるでしょう。特にコミュニケーションをスマホだけでしている人は、それが使えなくなることで、非常に孤独感と不安感が増します。そして精神的に落ち着かなくなります。いつ復旧するかもわからない。これもまた不安とストレスを大きくさせていくのです。
このように被災すると生活は大きく変わります。被災者それぞれが順応できればいいのですが、実際は、物心両面において多大な負担を突然背負わされるのです。

あなたは被災時の食事、用意できていますか?

予想以上に過酷な環境での食事はどのようなものを提供されるのでしょうか?
なぜか避難所に行けばお茶やお弁当などが一人ひとりに渡してもらえると思っている人が多いようです。実際は自分が持参した防災リュックの中の食べ物で何とかするのがほとんどです。なぜならば、避難所にある救援物資は、種類も乏しく、避難してくる人数と備蓄している数が合わなければ配布しないケースもあるからです。
また、被災者自身が食べ物に対するアレルギーなどある場合、救援物資で自分に合った食事が提供されるとは限りません。なので防災リュックを充実させる事は命に関わるほど大切なことなのです。
これだけ災害が起きていても、防災リュックを用意する人はたった1割しかいないと言われています。大抵の方が着のみ着のままで避難所にやってきます。防災リュックを背負ってきても、テーブルにあったものをかき集めていたり、中身が賞味期限切ればかりで使えない状態だったということも少なくはありません。

そしてなぜか避難所は自分が住んでいる所の近くの人だけがいる、つまり顔見知りの人たちがいるので、困っていたら助けてもらえると思っている人が多くいます。
実際の避難所は地域の方々だけがいるわけではないのです。今回の能登半島地震のように、帰省している人、旅行に来ている人なども避難所にやってきます。つまり全員が顔見知りというわけではないのです。その上、そこに住んでるからと言って、近所の人とのコミュニケーションが確実にあるわけでもありません。みんなそれぞれが必死で不安で仕方がない。他人のことなんて考える余裕もないというのが現実です。そんな状態なので、どれだけ困っていても、食べ物を分け与えてもらえるということは期待できるものではありません。

考えてみてください。あなたが必死になって逃げてきて、重たい防災リュックを持ってやっと避難所に着いた。そんな時、全く知らない人から「何も持ってきていません。何か食べ物を分けてください」と言われて気持ちよく分け与えることができるでしょうか?よっぽど余裕がなければ、人に自分のものを分け与えるのは出来ないものです。厳しいことを申し上げますが、あなたが「誰かに気持ちよくものをあげることができない」ということは、「あなたも誰かから、モノを分けてもらう可能性はそんなにない」ということです。

被災時の食事の設定はショボイのが当たり前になっていませんか?

日本の避難所がソマリアの難民キャンプ以下である。これは30年前から言われていることです。避難所の清潔度やプライバシーが守られているか、安全はどうなのか、排泄エリアは清潔か、そして寝る環境と食べる環境の設定はどうなのか。そんな部分を評価した結果、ずっと評価が変わりません。日本は世界でもまれに見る災害大国です。それも地震だけではなく、水害も多くあります。それなのにいつまでたってもかなり昔のスタイルを貫いていて、全く快適ではない。世界から見ても、防災はかなり遅れていると私は感じています。

その中でも私が気になるのは食事です。日本の被災時の食事は、いつまでたってもショボイ設定です。私はあらゆるところの避難所に行きました。そこでみたのは被災者が最初に食べているのは救援物資ではありませんでした。最初は避難所に備蓄として置いてあるものでなんとか凌ぎます。水を入れて作るアルファ化米のおにぎり、災害備蓄の缶詰やレトルト食品も冷たいまま。食器はいつもとは全く違って紙皿や紙コップです。
紙皿や紙コップなどでの食事が楽しいのはバーベキューやお花見。そこは温かい食事にきれいな景色や楽しい雰囲気。それが相まって、醸し出す空気感が楽しくさせているのです。残念ながら被災地は幸せの要素は全てなくなります。今まで見たこともないぐちゃぐちゃの景色(それは家の中も同じく)。幸せの香りも笑い声も、普段はあって、当たり前のものがなくなって、そんな中で食べる紙コップ・紙皿のご飯は喉を通らないという人にもよく遭遇しました。
ニュースやネットで見たことがある炊き出しで配られる温かいご飯。おいしそうなお弁当。災害が起きてすぐはそのような準備もできません。炊き出しのように温かくおいしいものが提供してもらえるなんて、毎日あるわけではありません。救援物資の倉庫に置かれていたものが被災者の手に渡るときには相当冷たくなっています。

温めなくても食べられるカレーやお弁当、普段食べたことがない乾パンや缶詰。確かにいただけるだけありがたいことです。しかしそれを食べて、笑顔になって、元気になって復興に向けて動くことができるのか?私はそれは無理だと思います。
いろんな場所で被災者がご飯を食べているシーンを見ても、大体の人は無表情。人はおいしいものを食べたら無意識に笑顔になります。会話が弾みます。どんなに辛い状況でも温かく、おいしく、心が暖まる食事をとれば笑顔になれるのに・・・。私が見てきた被災地での食事の場面に笑顔は全くありませんでした。これから先の不安を抱えて味わうことすらできない状況なのかもしれません。しかしこういう「被災時のショボイ食事」の設定はもう辞めた方がいい。むしろ温かくておいしくて、豊かで食べるたびに元気になれる食事を当たり前にしたいと思っています。

被災時に温かいものを食べる。私の中ではそれが普通です。なので準備もそのようにしています。カセットコンロとガスボンベ、固形燃料やキャンプ用品。いざとなったら廃材で竈門を作って火を起こして調理することだって可能です。

避難所に行ってそんなこと1人でできない。そう思うのであれば、周りの人も巻き込んでください。1人が持ってる食材なんて大した事はありません。でも一人一人が持ち寄ったもので何かは作れると思います。

私は以前、一泊二日の防災キャンプを開催していました。あえてライフラインが充実していない場所を選びました。そして自分の持ってきた防災リュックを使って生活をするのです。参加者の食事をチェックしてみたら・・・。大抵の人が持ってきているのが災害用の缶詰やレトルト。今まで食べたことないとおっしゃいます。実際食べてみると、味が合わないとか冷たくて嫌だとネガティブな感想ばかりでした。これも経験してみないとわかりません。翌日の朝にはもう食べたくないとみんなゲンナリしていました。そこで私はそれぞれの食材を集めて、温めてみました。それだけで皆さんの顔が変わります。会話が増えて笑顔になりました。次に、みんなが持ってきている食材で鍋をしました。闇鍋みたいでめちゃくちゃ楽しかった。カセットコンロと燃料と一人ひとりが持っている食材を駆使すれば、アイディア次第でこんなに楽しい食事になります。闇鍋の最後はアルファ化米を入れて雑炊にしました。その時には日も暮れていて、普段だったら心細くなってしまうかもしれない状況。しかし会話と笑顔が絶えなかったことを覚えています。

被災生活をもっと豊かに楽しくしてみよう。

私たちはどこかで被災時には、豊かなことをしてはいけないと勝手にブロックをかけているような気がします。質素に倹約し我慢をする。耐える。元に戻るまでは贅沢をしない。もちろんそんな考え方も大切。ここ近年日本においては、災害は毎年、年に2〜3回は起きています。今までの準備は「めったに起きない想定の防災」。だからこそ我慢できるのかもしれません。これからは我慢しない。被災時だからこそ早く元気になる。元に戻すために、豊かな避難生活を提案したいと思います。
そのためには1番は食事。私の防災リュックの中に入っている食事はとってもおいしいものばかり。ご当地カレーとかご当地限定のレトルト食品などが入っています。ステンレスジャーも入れているので、冷凍の餃子や焼売とお湯があればめちゃくちゃおいしいスープが作れます。お米とお湯があればお粥だって作れます。

ステンレスジャーを使った防災レシピはこちら

そんな防災リュックを見せると本当にびっくりされる。私にとってはショボイご飯の方がびっくりするけどね(笑)

ちなみに、味の素冷凍食品の「ギョーザ」は冷凍庫に保存していれば、停電して一晩経っても※フライパンとコンロがあれば普通に調理もできて、安心して焼きたてが食べられます。
※詳しくは「冷食って実はエコ」TOPページをご覧ください。

ちょっとした手間で調理ができるもの。それが食べたことがあって、おいしいものであれば絶対元気になれる。私はそういう基準で災害時のご飯を考えています。あなたも今日からは災害時のご飯をショボイものから豊かなものに変えてみてください。

執筆者:国際災害レスキューナース 辻 直美
※コラムの内容は、筆者の経験に基づく見解です。
2024/3/21掲載