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もしもの時に役立つ防災コラム

備蓄はわざわざしない

こんにちは。国際災害レスキューナースの辻直美です。
私はこれまで国内外合わせて30ヵ所以上の被災地に入って活動をしてきました。私の経験をもとに日頃からの心がけ・備えなどみなさまにお伝えしていきたいと思います。

地震や台風などの災害が発生した時に備えて、日ごろから防災備蓄品を準備しておく必要があります。とはいえ、準備しておくべき備蓄品の種類や数量がわからない場合も多いと考えられます。そこで今回は、災害時に有用な備蓄品をご紹介し、重要性や注意点、避難所生活で必要なものなどについて詳しく解説していきます。

災害に備えた備蓄の重要性とは?

災害時の備蓄の有無は、いざという状況での生活の質を大きく左右します。多くの自治体では有事に備え避難所に防災備蓄品を備えているものの、十分な量の物資が全員に行き渡るほど潤沢には用意されていない場合がほとんどだと言われています。災害の程度によっては自宅や会社などの場所から移動することが物理的に困難となります。状況によっては、助けが来るまでその場にとどまらざるを得ない場合もあります。 大規模なライフラインの停止など、災害時には何が起こるかわかりません。水や食料はもちろん、日用品や衛生用品なども日ごろから備蓄しておくことが、災害時に身を助ける最も有効な手段であるとされています。

どれだけの量を備蓄しておけばいいのか?

農林水産省発表の「災害時に備えた食品ストックガイド」によると、最低3日分から1週間分を想定した備蓄品が必要であるとされています。一般的に災害発生~ライフライン復旧までにかかる期間は1週間程度と想定されており、災害時支援物資の到着にも3日以上はかかる可能性が大きいためです。もちろん頭ではわかっている。しかしそんな量をいつ来るかわからない災害のために置く場所はない、お金もかけられない。そう思う人も多くいます。まずはどれぐらいの量が必要なのかを把握しておくことが第1歩です。そこから代用できないか、本当に必要かを精査していきましょう。最後はわざわざではなく、それを日常生活でどんどん使っていきましょう。まずは上記の基準に照らし合わせ、「大人1人あたりに必要な3日間分の備蓄品の量」をご紹介します。

※農林水産省:「災害時に備えた食品ストックガイド

最低限用意しておきたい備蓄【大人1人✕3日分】

★水【9リットル】

水分は生きる上で欠かせない最重要の資源です。大人1人あたりに必要とされる1日2リットルの飲料水と生活用水1リットル、つまり3L×3日=9Lは最低でも確保しておくことが大切です。

★食料【9食(主食、副菜、栄養補助食品含む)】

水分と同じく、生命維持に欠かせないのが食料品。保存性に優れた非常食や調理の手間がかからない栄養補助食品などを少なくとも9食分ストックしておくことをおすすめします。

★トイレットペーパー【3ロール】

排泄時はもちろん、緊急時のティッシュペーパー代わりにもなるため、1日に1ロール消費する前提で備えておくと良いでしょう。

★簡易トイレ【21セット(1日7回使用の場合)】

災害発生時に直面する問題のひとつが「排泄」に関わるものです。1日に最低7回の利用を想定し1人あたり7セット×3日分を準備しておくと良いでしょう。

★常備薬【各1箱(解熱鎮痛剤、総合感冒薬、軟膏、包帯、湿布など)】

被災時には環境の変化による体調不良や外傷など、さまざまなリスクが懸念されます。救助までの応急処置としても、鎮痛剤や包帯、湿布、常備薬などを1箱ずつ準備しておきましょう。

★毛布【1枚】

災害発生から救助までの間、少なくとも数日以上は過酷な環境下で過ごさなければならない可能性があります。睡眠時や保温のために、毛布を1人1枚ずつ準備しておくことをおすすめします。また、毛布は寒さが厳しい時だけでなく、床面が荒れている際などさまざまなシチュエーションで役立ちます。

★ラジオ【1台】

スマートフォンやパソコンの使用が現実的でない被災時において、貴重な情報源となるのがラジオ放送です。被害状況や救助時間の目安を把握するために、1台備えておくと良いでしょう。

★携帯電話用バッテリー【1台】

上記でスマートフォンやパソコンの使用が現実的でないと述べましたが、インターネット回線のエラーだけでなく電力不足も予想されます。各自携帯電話用バッテリーを1台は準備しておき、もしもの時に備えましょう。

★懐中電灯【1台】

備蓄品の中でも特に重要なのが灯り。停電が大きな問題となる災害発生時には、唯一の光源となります。持ち運びが簡単で、場所移動の時にも土砂崩れや家屋の崩落などによる道の荒れを確認し、事故や怪我のリスクを軽減することに役立ちます。

★電池【1箱(10本入)】

単3電池・単4電池など汎用性の高い電池も備えておきたいアイテム。電池交換式の携帯電話用バッテリーや懐中電灯、ラジオなどさまざまな機器の駆動に欠かせません。

以上が、災害時に最低限必要な3日分の備蓄品です。食料品と衛生用品、情報源の確保は特に重要とされています。このほかライフラインの中断に備えるため、カセットコンロや生活用水を補給する給水袋などを備えておくことも有効です。非常食にはなるべく調理を必要としないカンパンや缶詰、アルファ米などを選び、栄養補助食品も備えておくと良いとされています。

食事の必要な量がわかったら、次は備蓄の方法を考える

先ほどの備蓄量はあくまでも1人分。そして3日分です。家族がいたらもっと必要な量は増えていきます。そして今は在宅避難が推奨されています。救援物資が来るまでは自分たちが用意した備蓄だけでなんとかしなくてはなりません。そんな時に普段食べたことがない災害専用のレトルトや缶詰食品しか用意してない。食べてみたら最初はおいしかった。しかし2日もしたら、他のものが食べたい、前の生活ができないと思うから尚更欲しくなる。こんな状況を私は被災地でよくみました。
そこで提案するのが「わざわざしない備蓄」です。いつ来るかわからない災害時のために大切においておくのではありません。普段から使うのです。まずあなたが日常生活の中で譲れないものが何かを考えてください。睡眠、食事、清潔の三つの中でどの順番で譲れないか?その中の1番譲れないものを、あなたが備蓄するときに充実させておくということになります。あなたが譲れないことは普段の生活の中でも同じこと。ストックも充実しているのではないでしょうか?なので、災害用を買わなくても、あなたが普段買っているものを多めに買っておくのです。それを賞味期限が切れそうな順番で使う。一定の数を決めておき、足りなくなったら購入する。これをローリングストックといいます。これなら普段のストックと災害備蓄の2つを用意しなくていい。そして管理も楽になります。

食事以外も備蓄方法を見直してみよう

普段使っているものでも災害時に役に立つものがたくさんあります。災害時は日常やってることしかできません。なので“災害時を想定して”ではなく、“普段から使いこなすこと”が必要です。

★「カセットコンロ」で簡単な調理を可能に

ガス・水道・電気などのライフライン回復には相当な時間がかかることが想定されます。そこで備えておきたいのがカセットコンロです。ガスボンベさえあれば、簡単な調理を行うことができます。被災してすぐのタイミングにも、避難生活中にも役立つ優れものです。

★「ウェットティッシュ」で手指や身体を清潔に保つ

災害発生時に大きなストレスの原因となり、体調を損ねる一因となり得るのが「清潔さ」の問題です。身体や手指の汚れを落とせないことは、想像以上に心身への負担です。ウェットティッシュやウェットタオルなどを常備しておけば、有事の時にも安心でしょう。

★「ラップ」で皿などを汚さず再利用

何気ない生活用品のラップも、さまざまな活用法がある汎用性に優れたアイテム。お皿にラップを敷いて使用することで洗うための水を節約できる上に、段ボールや新聞紙などをラップで覆って皿にすることや、丸めてスポンジ代わりにすることもできます。衛生用品としても備えておきたいアイテムと言えるでしょう。

★「新聞紙」は防寒からゴミ処理まで大活躍

普段は処分しがちな新聞紙ですが、防寒対策からゴミの処理まで幅広く活躍する便利なアイテムです。トイレットペーパーや紙皿の代用品として、燃料としてなどさまざまなシーンで役立ちます。

★「ポリタンク」や「ペットボトル」で給水車からの補給をスムーズに

災害発生時から避難生活中まで、被災後のあらゆるタイミングで直面するのが「水」に関する問題です。人間が生活する上では、飲料水はもちろん生活用水としても相当量が必要となり、ライフライン復旧まで備蓄だけで乗り切るのは現実的ではありません。 多くの場合、被災地では給水車が出動します。給水のタイミングでスムーズに水を確保することができるよう、ポリタンクや空のペットボトルなどを準備しておくことをおすすめします。それらがなくても、水筒、ゴミ袋とリュックサックでも給水タンクは作れます。

リュックを広げゴミ袋を二重にセットすると、ポリタンク代わりに水を持ち運べます。

※「レスキューナースが教えるプチプラ防災」撮影/林紘輝(扶桑社)

“ないから諦める”ではなく、“なくても代用”。これはレスキューの現場では当たり前の考え方です。日常でもあるものを組み合わせて 自分が欲しいものを手に入れる。これが当たり前になってきたら、ないからと言って諦めることもない、物が少なくても手に入れることができるのです。

『フェーズフリー』で考える防災備蓄

身のまわりにあるモノやサービスを、日常時はもちろん、非常時にも役立てることができるという考え方、それが『フェーズフリー』です。
防災用品のほとんどは、ふだんはしまっていて、非常時のみに取り出して使うものです。しかしそれでは物が増えるし、置く場所もない。気がついたら期限切れになって捨てることに・・・ということもよく聞く話です。しかし今回ご紹介した方法だったら、その問題を払拭できます。
テントや寝袋、カセットコンロ、ヘルメット、LEDランタンなどは、避難生活でも利用できますが、特定の職業やアウトドア趣味を持つ人などはふだんから日常的に利用しているもの。これは使い方も日常と避難生活では大きく差はありません。私はアウトドアやキャンプが好きなので、キャンプ用品をたくさん持っています。
例えば、ダッチオーブンという鋳物の鍋は普段から使っています。これが素晴らしい鍋で、ズボラな私でも美味しい料理ができるのです。蒸す、焼く、煮る、炒めるがこの鍋でできるので、たいていの料理は可能となります。
これに加えて、メスティンというアルミの四角い飯盒や、ホットサンドメーカーなども普段から多用しています。使えば使うほど上手くなるし、さらに他との組み合わせを考えてどんどん“つかえるアイテム”になっています。もったいないと言わずに、どんどん使ってスキルを備蓄、さらにアイデアを出して、快適な日常、快適な避難生活を生み出していきましょう。

執筆者:国際災害レスキューナース 辻 直美
※コラムの内容は、筆者の経験に基づく見解です。
2023/2/20掲載