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もしもの時に役立つ防災コラム

災害時は日常でやっていることしか出来ない

こんにちは。国際災害レスキューナースの辻直美です。
私はこれまで国内外合わせて30ヵ所以上の被災地に入って活動をしてきました。私の経験をもとに日頃からの心がけ・備えなどみなさまにお伝えしていきたいと思います。

日本は地震や台風などの自然災害が多い国です。
だからこそ、防災の意識を高めることが重要です。しかし、皆さんが感じているように、実際に何をすればよいのか具体的な行動に移すのは難しい。準備をしていれば、いざという時動けるものか?そんなことはありません。災害時と平常時は繋がっています。災害時だけ特別なことができるわけではありません。私はいろんな現場の被災者の方々と話をしていて、それを痛感しています。たとえ防災意識が高いと思っていても、実際に実行に移せていない人は、予想以上に多いものです。
だからこそ知ってほしい、私が考える防災へのアプローチを紹介します。

防災の3つのポイント

私の考えている防災の特徴は、①日常的にできること、②何事も面白がる、③災害時だけではなく日常生活のためになる、という3つのポイントにあります。これらのポイントを踏まえ、具体的な防災対策を提案します。

① 日常的にできること

大阪府北部地震の際に私が作った食事です。
普段からこのような調理法をしているので不便ではありませんでした。

防災対策は特別な準備や大掛かりな計画が必要とされることが多いですが、私のアプローチはもっとシンプルです。日常生活の中でできる小さな工夫こそが、いざという時に役立ちます。以下に、日常的にできる具体的な防災対策を紹介します。

・バッグに小さな防災グッズを常備する
普段から持ち歩くバッグに、小さな防災グッズを入れておくことは非常に効果的です。例えば、ミニ救急キット、防災笛、小型の懐中電灯、エマージェンシーブランケットなどです。これらのグッズは、バッグの中に常に入れておくことで、緊急時にもすぐに対応できるようになります。

・家庭内の整理整頓を心掛ける
家の中が整頓されていることは、防災対策の基本です。普段から使わないものは整理し、必要なものがすぐに取り出せるようにしておきましょう。特に、非常食や飲料水、医薬品などの備蓄品は定期的にチェックし、期限切れのものは入れ替えるようにしましょう。

・日常の食事に保存食を取り入れる
非常食と聞くと特別なものを準備する必要があると考えがちですが、普段の食事に保存食を取り入れることで、自然と非常食のストックができます。缶詰やレトルト食品、乾燥食品などを普段から使い、使った分だけ補充することで、常に新鮮な非常食を確保できます。
つい非常食を専門のもので揃えがちですが、それはあなたの口に合うでしょうか?それよりも普段食べているもので、日持ちがするものを少し多めに買ったほうが日常生活は潤うと思います。
また、このような非常食は、急に病気になった時、天気が悪くて買い物になかなか行けない時、そんな時でもあなたのことを助けてくれます。ついつい大きな地震や大雨の災害を想定してしまいますが、日常でも小さな災害はあると思います。(例えば、急な発熱で寝込んでしまうことなど)そんな時に非常食があればひもじい思いもしないし、心の安心につながると思います。

・定期的な防災訓練を家族で行う
防災訓練を定期的に行うことで、家族全員が緊急時の行動を理解し、実際に体験することができます。避難経路の確認や非常時の連絡方法の確認など、具体的な行動をシミュレーションすることで、実際の災害時にも冷静に対応できるようになります。
しかし、そんなに大掛かりなものをする必要はありません。今週末は家にあるものだけでご飯を作ってみる、それもできれば家にあるガスや電気は使わない。カセットコンロで料理をしたり、中型バッテリーからIH調理器をつないでみたりして、非日常のやり方でご飯を作ってみてください。その際お皿にはラップやポリ袋でカバーをしてなるべく水を使わないで片付けができるようなテクニックも使ってみましょう。夜のご飯の時は照明器具はやめて、懐中電灯だけとか…。とにかくライフラインが切れている状態を体験してみることだと思います。まずは日中だけ、そこから土日2日間など少しずつ時間を長くしていくのも良いでしょう。
※夏場の訓練は熱中症になりやすいので、注意しながら実施してください。
気温22℃~24℃ぐらいの、風が吹いて半袖でちょうどいい気候の時にやることをお勧めします。少しでも体調が悪くなったら、すぐに取りやめる、水はがぶがぶ飲みすぎずにミネラルを取りながらの実施を推奨します。

防災キャンプの夜にツナ缶キャンドルを作りました。

② 何事も面白がる

防災対策は真面目で厳格なものと捉えがち。しかし私はその考えを覆し、楽しみながら取り組むことの重要性を強調しています。私はどんなことでも、どうせやるんだったら前向きに捉えるようにしています。マイナスなことすらもこんな機会でもないと体験することないしなぁと思うし、体験しないとわからないことが明確になり、その上で知ることができるいい機会だと捉えています。

「何事も面白がる」、もっと具体的にご紹介しましょう。
実は、4月から6月の半ばまで膝の手術をして長期の入院をしていました。その時にいろんな体験をしました。全てが楽しいことではありません。喜怒哀楽、いろんな感情も感じたし、患者にならないとわからないこともいっぱいありました。悔しくて涙を流したこともあるし、なんでこんな思いさせなアカンねんと怒った日もあります。でもそれも全て、今では体験してよかったなぁと思うことばかりなんです。入院中もあらゆることを面白がっていました。片足を完全固定されて、なのに、1人で、車椅子でトイレに行く。非常に不安定だし、辛いし、失敗もする。この年齢でなんて情けないと思ったこともたくさんあります。でもやってるうちに「こうすればもっと楽にできるかも?」とアレンジが効いてくるんですよね。そうしているうちに、もっと早くもっと快適にできないかなと考えるようになりました。これがなんでも面白がるだと思います。

入院中にはいろんなことを全てデータに取っていました。例えばトイレまで車椅子で何回漕いで行けるかをカウントしました。早く漕ぐためにはどうすればいいかも考えて、あれこれ実践しました。最初は128回漕がないと辿り着かなかった。それが、最後は66回で行けるようになりました。何が違うのかどうやったらいいのか、こういうことを考えてやってみる。そしてその結果良いことをスキルとして取り入れる。こういうのが面白がるってことです。

どうしても硬く、真面目に真正面からやろうとして結局長続きしない。そういう相談はよく受けます。しかし防災を楽しくすることで、長続きしやすく、家族全員が積極的に参加するようになります。以下に、楽しみながらできる防災対策の例を紹介します。

・ゲーム感覚で防災訓練を行う
防災訓練をゲームとして楽しむことで、家族全員が積極的に参加するようになります。例えば、「避難所までのルートを一番早くたどり着く競争」や「非常時に必要なものを素早く集めるチャレンジ」などを行うことで、楽しみながら防災意識を高めることができます。
夜、真っ暗な中、懐中電灯やランタンなどを並べて、誰が早く全部スイッチを入れるかっていうゲームだって十分に防災訓練になります。実際に水をウォータージャグやペットボトルなどに入れて給水所から家まで持って帰ってくる。その際、誰が一番早いのか?誰が1番楽なのか?それを競うのもゲームになります。

・キャンプやアウトドア活動を通じて防災スキルを学ぶ
キャンプやアウトドア活動は、災害時に役立つスキルを学ぶ絶好の機会です。テントの設営や火起こし、野外料理などのスキルは、緊急時にも役立ちます。また、家族でアウトドアを楽しむことで、絆が深まり、防災に対する協力体制が整います。いきなり1泊2日のキャンプを慣れてない人がするとしんどかったという思いだけが残って二度とキャンプに行かなくなります。まずはデイキャンプから始めてみましょう。自治体や専門の会社がやっているイベントに参加するのも良いと思います。ただしグランピングはキャンプにはならないので、ご注意を(笑)

・防災グッズを楽しく手作りする
市販の防災グッズを購入するだけでなく、自分たちで手作りすることで、楽しみながら防災対策を進めることができます。例えば、手作りの非常食や防災マニュアルを作成することで、家族全員が防災に対する意識を高めることができます。
今はものが豊富にあり、それ専用のものがたくさん売っているので、ついついそれに頼りがちです。しかし災害時はものが豊富にあるわけではありません。ないから諦めるのではなく、ないからこそ手に入れるという精神が大事です。そのためにも、家の中にあるものや、気軽に買えるものを組み合わせて防災グッズを作る、そして使ってみるという体験が大事だと思います。

例えば、段ボールと紐があれば椅子が作れます。新聞紙だけで足を守る新聞足袋を作ることもできます。コピー用紙をうまく折れば、紙鍋をすることもできます。

段ボールイスに座ってみた

新聞で作った新聞足袋

コピー用紙で作った紙なべ

災害時にいきなりこんなことはできません。普段からやっておいて、自分のやりやすいやり方、自分に心地良い方法を知っておかなければできないのです。
平時にたくさんの経験をすること、失敗もたくさんしてください。すればするほどやりやすい方法が見つかります。ちなみに、私は家の中にあるものだけで、防災グッズを作るというテクニックを『保存版 防災ハンドメイド 100均グッズで作れちゃう!』(KADOKAWA)という本にまとめています。ご興味がある方はぜひ読んでみてください。

③ 災害時だけではなく日常生活のためになる

私の考える防災へのアプローチは、災害時だけでなく日常生活にも役立つことを重視しています。防災対策が日常生活を豊かにすることで、継続的に取り組むことができます。以下に、日常生活に役立つ具体的な防災対策を紹介します。

・非常食の管理で食費を見直す
非常食のストックを定期的に入れ替えることで、食品の無駄を減らし、家庭の食費を見直す機会となります。非常食として購入した保存食を普段の食事に取り入れることで、無駄なく使い切ることができます。定期的に入れ替えるのは、非常用のものとして購入したものを入れ替えるのではなく、もう自宅にあるものを全て日常と災害時のストックと考えることが大事です。これこそローリングストックという考え方です。わざわざ災害時のためにたくさんのストックを置くような場所もない。時間もお金ももったいない。でも日常生活に使っているものを少し多めに買う。これならできなくはないと思います。そして「普段から使ったら+」を繰り返していけば、最低限の数は必ずストックできるはずです。私はローリングストックをするようになってからフードロスが本当に減りました。家の中できちんと管理ができるようになったからです。

そして過去3回被災していますが、そのうち2回は自宅で被災をしています。その際に食事で困ったという経験がないのです。何かしら食べるものがあって、それも普段食べてるものが変わらない。これはメンタルダウンしないし、復興に向けての力も出ました。普段から食べない、口に合わないものを食べていては、瓦礫を片付けるような気にはならないですからね。

・整理整頓で効率的な生活を実現する
家庭内の整理整頓を徹底することで、日常生活の効率が上がり、ストレスの軽減にも繋がります。必要なものがすぐに見つかり、無駄な買い物を減らすことができるため、経済的にもメリットがあります。防災目的であれもこれもたくさん買ってしまうという人もたくさん見受けられます。しかし本当にそれは必要な量なのか?目につくものばかり買っていて、ほんとに必要なものは揃っているのか?この質問をして胸を張ってイエスと言える人はほとんどいなかったです。

私も阪神・淡路大震災までは買い物大好き、おしゃれ大好き。でも管理できない、片付けられない人でした。口癖は「着るものないなぁ」でした。家で被災して、そこで思った事は「大好きなモノたちで、死ぬかもしれない」ということでした。友人はたくさんのブランドのカバンや服を持っていましたが、家が全壊して、避難所に行く時に持って行けたのは、ノーブランドのスポーツバックでした。「ブランドのバックが何個もあっても全部持っていかれへんな。生活に必要なカバンってそんなにたくさんいらんで」私は彼女のそのセリフが今でも忘れられません。こんな経験をして私はまず片付けるようになりました。それから防災の観点で片付けるようになると、さらに整理整頓ができるようになりました。もちろん時間はかかっています。でも自分なりのメソッドが決まったら家が片付いた状態をキープできるようになりました。自分1人で頑張らなくても、家族みんなができるようになりました。結果、生活が豊かになったのです。まさか防災をして片付け上手になって、探し物をしない、無駄遣いをしない生活になり、家がずっときれいになるなんて、思ってもみなかったサプライズです。

・水の管理で健康をサポートする
防災対策として水の備蓄を行うことで、普段から飲料水の管理を見直すきっかけとなります。定期的に備蓄水を交換することで、常に新鮮な水を確保し、家族の健康をサポートすることができます。災害時水は本当に大事です。給水車が来るまでの間、なるべく自分たちの備蓄で水を回していく必要があります。私はいろんな大きさのペットボトルを用意しています。そしてそれを使うという体験も大事です。使いながら補充する。そうすることで、品質管理を保つこともできて、かつ最低限の数を確保することも可能です。ペットボトル以外にも、ウォーターサーバーなど使う方もいるでしょう。本当に水がなくなったときのためにミリタリーレベルの浄水器を用意することも必要かもしれません。私は実際にその浄水器を使って水を飲んだことがあります。かなり勇気が要ります。大丈夫って書かれていてもいきなりはできません。何回か試してみて、本当に安全が担保できていると確認できているので、災害時もこれを使おうと思っています。

・防災知識を日常生活に応用する
防災の知識は、日常生活にも応用できるものが多くあります。例えば、怪我の応急処置や、アウトドアでの簡単な料理法など、日常生活に役立つスキルを身につけることができます。防災を通じて得た知識やスキルは、家族の安全と生活の質を向上させるための貴重な資源となります。また、過去にあったいろいろな事件事故などから、どうすれば回避できるのかというアイデアを手に入れることもできます。アウトドアやキャンプなどの企業が主催するイベントなどに参加すると、実際に体験することもできると思います。またたくさんの書籍も出ているので、読むだけではなく、実際にやってみるのが大事です。

私は防災を日常生活の一部として取り入れ、楽しみながら実践することを提案しています。日常的にできる小さな工夫や、楽しみながら取り組む姿勢、そして日常生活にも役立つ防災対策を通じて、より実践的で持続可能な防災意識を高めることができるのです。防災は特別な準備ではなく、日常生活の延長線上にあるものだというメッセージは、多くの人々にとって新たな気づきを与えてくれることでしょう。

このコラムを参考にして、日常生活の中で楽しく防災対策を進めてみてください。防災意識が高まり、家族全員が協力して取り組むことで、いざという時にも安心して対処できるようになります。そして、日常生活がより豊かで安全なものになることを願っています。

夏休みの自由研究のためにみんなで段ボールイスを作りました。

執筆者:国際災害レスキューナース 辻 直美
※コラムの内容は、筆者の経験に基づく見解です。
2024/7/22掲載