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「フリーザー脱フロン化」20年の軌跡(前編)
フロン冷媒から地球にやさしい自然冷媒へ

今回は、私「ストーリー」専属ライターXが、約20年もの歳月をかけて歩んできた味の素冷凍食品「フリーザー脱フロン化」について、社員へのインタビューを交えてレポートしていきます。

冷凍食品メーカーがなぜ「フロン」?

皆さんは、2021年3月、味の素冷凍食品が「冷凍食品業界初!国内全工場のフリーザーの脱フロン化」という見出しで記者会見を行ったことをご存じだろうか。記者会見はおろか、おそらく「フリーザーの脱フロン化」という取り組み事実を今初めて知る人が多いのではないかと思う。
また、「フロン」がオゾン層破壊と地球温暖化につながることは知っていても、「フロン」と言われて身近に思いつくものはスプレー缶の噴射剤ぐらい…。冷凍食品メーカーにとっての「フロン」が何を意味するのか、実は疑問に思う人も少なくないはず。よって、話はそこから始めようと思う。

冷凍食品メーカーにとって、冷凍食品を製造するためになくてはならないのが「フリーザー」である。「フリーザー」には、冷却する媒体として用いられる物質「冷媒」(いわゆる冷却材)が不可欠で、その「冷媒」として使用されているのが「フロン」だ。かつて「冷媒」といえば「アンモニア」が主流だったが、「フロン」は20世紀の人類が発明した「冷媒」に理想的なガスと言われ、安全性・安定性の面から「フリーザー」にも使用されてきた。すなわち、工場に大型の「フリーザー」をいくつも有し、「フロン」を当たり前のように使用してきた冷凍食品メーカーが「脱フロン」に取り組むということは、未来の地球のために、事業基盤の根幹にメスを入れるという非常に大きなことなのだ。

今でこそ「SDGs」と言われているが、味の素冷凍食品はなんと20年前から、業界に先駆けて、この「脱フロン」に取り組んできたという。そこで、どのようにして味の素冷凍食品が「脱フロン」に取り組むことになったのか…20年前に遡って、歴史とともに紐解いていきたいと思う。

約20年前の話/フリーザー冷媒の選択

「フロン」は、1960年代以降、「冷媒」以外にもさまざまな用途に活用され、先進国を中心に爆発的に使用されていた。しかし、大気中に放出された「フロン」がオゾン層を破壊することが解明され、1985年南極にオゾンホールが発見されると世界中で大問題に。日本国内でも1988年「オゾン層保護法」、2001年「フロン回収・破壊法」が制定され、冷媒としての「フロン」規制は厳しくなっていった。2000年当初、味の素冷凍食品は国内9工場計47基の「フリーザー」を保有しており、一部は更新時期を迎えていたことから、その対応について決断を迫られていた。

ライターX:当時、冷媒としての「フロン」規制が厳しくなる中、どのような選択肢があったのでしょうか。

社員:フリーザーに使われている「フロン」は、オゾン層を破壊する「特定フロン」と言われるもので、2020年には生産中止が決定していました。よって、選択肢としては2つ。従来より用いられていた「アンモニア」と、当時新たに開発され、世界的に普及していたオゾン層を破壊しない「代替フロン」です。
「代替フロン」は、「特定フロン」と同じように扱うことができ、同じ機能を持ちながら、オゾン層を破壊しないことから広く受容され、「特定フロン」を「代替フロン」に置き換えるというのが世の中の一般的な流れでした。ですが、2001年四国工場のフリーザー更新で、私たちは「代替フロン」ではなく、あえて「アンモニア」を選択したんです。

ライターX:普通に考えると「代替フロン」を選択すると思うのですが、なぜ「代替フロン」を選択しなかったのでしょうか。

社員:「代替フロン」は、オゾン層を破壊しないものの、地球温暖化係数が「特定フロン」と同様に高いことがわかっていたため、いずれ規制が入るのではないかという読みがあったからです。というのも、地球温暖化の話は、オゾン層保護から10年ほど遅れてやってきたのですが、地球温暖化につながる温室効果ガスにはこの「代替フロン」も含まれ、先進国での排出量削減の話が出始めた頃。そのためオゾン層保護のみでなく、地球温暖化防止の両軸で見極める必要があると考え、議論を重ねました。

ちなみに、オゾン層破壊だけでなく、温室効果ガスとして気候変動に悪影響を与えるとして、「代替フロン」の生産量・消費量に規制が入ったのは、それから15年後。2016年のことである。

▲冷媒別の環境への影響

ライターX:・・・それで、結果的に「アンモニア」を選択することになったのでしょうか。

社員:「アンモニア」を選択したのは、結果的にではなく、当時「地球にやさしい冷媒は何か」を改めて考えたとき、どんなに技術開発が進んでも「自然冷媒」より地球にやさしいものはないだろうという考えに行き着いたからです。

ライターX:そうでしたか。「アンモニア」の選択は、単に先代の冷媒に戻すということではなく、「自然冷媒」というポジティブな選択だったのですね。

社員:はい。ただ一方で、「アンモニア」の安全性リスクを考慮すると、全面的に「アンモニア」に切り替えることは躊躇していました。

確かに「アンモニア」は、地球にやさしい「自然冷媒」ではあるものの、強い刺激臭があり、人体に有毒な物質と言う点で、安全性リスクを伴う。よって、味の素冷凍食品では漏洩検知器と酸素濃度計の設置により、いち早く漏洩を察知する仕組みと、アンモニア除害装置の設置により、万が一工場内に漏洩した場合も、アンモニアを吸引・中和して、大気に放出できるようにすることで、リスクを最小限に食い止める方策を立てるなど、漏洩には細心の注意を払ってきたという。

ライターX:「アンモニア」のほかに「自然冷媒」の選択肢はなかったのでしょうか。

社員:当時、地球にやさしい「自然冷媒」として「二酸化炭素」の開発検討が各社で進められていました。
「二酸化炭素」は、仮に漏洩しても、アンモニアのような臭気や毒性はないため、安全性は高いのですが、冷凍能力では「アンモニア」に及びません。というのも、「二酸化炭素」を冷媒として使うには強い圧力が必要で、小型のフリーザーには使えるものの、工場で使用するような大型のフリーザーには向かなかったのです。

そんなある日、アンモニアと二酸化炭素を併用したフリーザーが新たに開発された話を聞き、その設備を使いはじめたという九州のうなぎ屋さんを見に行ったという。

社員:これならば「アンモニア」の冷凍能力の高さと「二酸化炭素」の安全性を両立できる。そして何よりも「自然冷媒」なので、オゾン層破壊も地球温暖化への影響もない。何としても、この設備の大型化を実現させたいと思いました。

そして、2004年九州工場にアンモニアと二酸化炭素を併用したフリーザーが冷凍食品業界で初めて導入された。世の中は「特定フロン」から「代替フロン」への移行が進む中、地球にやさしい「自然冷媒」にこだわり、アンモニアと二酸化炭素を併用した大型のフリーザーを業界に先駆けて導入したのは、実は18年前の味の素冷凍食品だったのだ。

▲九州工場のフリーザー用冷凍機(自然冷媒)

約20年前の話/2006年「フリーザーフロン全廃」宣言に至るまで

しかし、アンモニアと二酸化炭素を併用したフリーザーは、高い冷凍能力と安全性を有する一方、既存設備が使えないことから、当時の国内全工場47基のフリーザー全てを切り替えるとなると、投資総額およそ200億円という試算結果が。経営として非常に大きな決断を迫られることになった。

社員:2020年「特定フロン」の生産中止まで、当時はまだ15年近くありました。また、業界内ではそこまで急いで「自然冷媒」に変えなくてもよいという雰囲気も感じました。ですが、今ここで安易に「代替フロン」に逃げるのではなく、オゾン層保護と地球温暖化防止の観点から「自然冷媒」が求められる日が、遠くない未来に必ず来ると信じ、あるべき姿をどう実現するかをみんなで考えようとなりました。フロン冷媒に対する対応を経営課題と捉え、この先会社を存続させるためにも、地球にやさしい「自然冷媒」への転換、すなわち「フロン全廃」を目指すという強い意志を固めました。

よって、味の素冷凍食品は、「フリーザーフロン全廃」を中長期計画の重点施策として位置づけ、2006年、国内工場のフリーザーに使用しているフロンを2020年までに全廃することを公的宣言するに至った。

▲当時の味の素冷凍食品ホームページ(抜粋)

社員:フリーザーは冷凍食品メーカーにとってなくてはならないもので、冷媒として使われている「フロン」に対し、冷凍食品業界は同じ課題を抱えています。当時のホームページを見ると、未来の地球を見据えた会社としての決意表明であることはもちろん、同じ課題を抱える業界全体で世の中を変えていくことができたらよい、という願いも込めての宣言だったように思います。

その後、2020年「フリーザー脱フロン化」完遂までの道のりは、実際どのようなものだったのか、次回(後編)に続く。
後編はこちら

▲参考年表

2022/9/5掲載

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