「今度のフェア、和田さんのところにお願いしようかな」
バイヤーの言葉を聞いたとき、和田はこれまでの努力が報われたと思ったが、喜んでいる暇はなかった。せっかくの機会を不意にしたら、期待に応えられないどころか積み重ねてきた信頼が揺るがないとも限らないからである。だからこそ、フェア初日が雨という天候にいつも以上にナーバスになったのだ。
スーパーに出向くと、雨降りにもかかわらず客足は思っていたほど落ちることはなかった。コーナーで自社製品を手にするひとりひとりに、ありがとうございますと声をかけたくなるほどだった。フェアは成功の裡に終わり、より確かな信頼を築くことができた。これをきっかけにフェアを開催する機会が増え、より深くスーパーに食い込むことができたのだ。1年が経ったときに振り返れば、売上げベースで前年比130%を達成していた。
ビジネスは会社どうしのつながりであることは言うまでもないが、その足もとをささえるのは担当者どうしのつながりにほかならない。仕事を通じて和田が実感するのは、営業テクニックもさることながら人と人とのつながりの大切さだ。
2006年に大阪から東京に異動した和田はいま、当時と同じようにスーパーマーケットを担当している。これまでの経験で営業スキルが高まっていることは実感しているが、客先にこまめに出向いてバイヤーや店頭スタッフたちと顔をあわせる姿勢に変わりはない。会わなければ、なにもはじまらないのだ。
ある日、和田はいつものようにスーパーに向かうために営業車に乗り込んだ。助手席に置いた鞄には新しい提案書が入っている。自分でも成功すると確信できる企画だ。フロントガラス越しに見える空には雲ひとつなかった。
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